ストーリー

交通課題の解決が町の活性化の鍵 ー 中頓別町長 小林生吉

2017 年 9 月 27 日 / 日本

北海道・稚内から車で南に2時間弱の所に位置する、人口約1,800人の町、北海道中頓別町で、UberのICTシステムを活用したライドシェア(通称: なかとんべつライドシェア)の実証実験が行われています。今回は、中頓別町長の小林生吉さんに、なかとんべつライドシェアを導入のきっかけや、期待することをお聞きしました。

もっと気軽に、そして安全に出かける機会を

中頓別町長になり3年となった小林生吉さん。町政を考えるにあたり、交通は大きな課題でした。中頓別を通るJR天北線が平成元年に廃止された後は、代替輸送でバス転換を行ってきましたが、利用者も減り、採算がとれなくなってきました。そうしているうちにもどんどん地域は高齢化し、移動手段に困る人が増えていくという状況が続いていました。

特に道が凍りつく冬期は、高齢者が外を歩くのは転倒などの危険を伴うため、どうしても閉じこもりがちになってしまいます。通院など特別な場合に加え、友達と会ったり、町で行っている健康づくりの講座に参加したりなど、どうしたらもっと気軽に、そして安全に外に出る機会を多くつくっていけるかと、常に考えていました。 「そんな中、ライドシェアという仕組みがあると聞き、予備知識もないままUberさんのもとにうかがってみました」。ITと過疎地域という組み合わせが非常に新鮮に感じられたそうです。「具体的に話が組み立てられ、それを自分の町でと想像すると、ぜひ一緒にやってみたいと思いました。」

手探りながらライドシェアを始めてもうすぐ1年。小林町長のもとには、町民からの喜びの声も届いています。「今までできなかったことができるようになったという声、ドライバーの方からも、あらためて町民同士のつながりが生まれたという声も聞こえています。」今後もっと利用者やドライバーを増やしていこうと、町のあちこちに大きなポスターを貼り、町の広報でも盛んにPRしています。

今後は観光として利用していく可能性も探っていきたいと言います。公共の交通機関で町を訪れても、域内の移動手段がないという現状をライドシェアで改善し、「ライドシェアがあるから行ってみようという人が1人でも来てくださるといいなと期待を持っています。」

町民同士が助け合うシェアリングエコノミー

町ではライドシェアを、シェアリングエコノミーの一環と位置付けています。「地域の中でこれだけ人口が減り、高齢化していくと、全ての問題を行政に依存し、行政が解決していくには無理が生じます。地域に暮らす人たちができる部分で支え合い分かち合い、共有していく、そういう仕組みを取り入れて行くことが不可欠だと考えています。」

ライドシェア以外には、ファミリーサポートセンターという、地域の子どもをボランティアが預かるという事業も進めています。

そうは言いながら、ライドシェアを導入しようと決めたときにも、果たしてドライバーをしてくれる人がいるのだろうかという不安がずっとありました。ところが実際にはドライバーも、子育てボランティアも、想像もつかなかったところから多くの人が手を挙げてくれたと言います。「予想以上に町民の皆さまからの協力を得ることができました。今まで気づかなかった、眠っていた地域の資源というか宝物みたいなものが見えてきた気がします。」それは町長にとって、何より喜ばしいことでした。

「それがこの町の、これからの可能性でもあると思っています。地域のなかで何かしたいと、けっこう皆さん思ってくださっている。じゃあ具体的に何をするという部分が提案されないと手が挙げにくい。漠然とではなくきちんと提案していけば、協力してくれる方がいるんだというようなことにあらためて気づきました。」

人と自然を含む町の資源を生かした「上質な田舎暮らし」を

小林町長は、中頓別生まれ中頓別育ち。町長となる前は長く役場の職員を務めてきたからこそ、町の変化や課題もよくわかっています。「過疎地ならではの大きな問題をたくさん抱えています。消滅可能性の自治体としても挙がっています。今やるべきことをやらないと町がなくなってしまう。この問題から逃げることはできません。」

生まれ育った中頓別をこよなく愛する小林町長。町の魅力は「良くも悪くも自然が豊か。逆に言えば自然しかない」と笑いながら、「長く住んでいる人が多いという土地柄、町民同士のつながりが強い一方、外から来る人たちにも寛容なのもここの良さだと思います。おもてなしの気持ちを多くの町民の皆さんが抱いていますので、そこを生かせたらいいなあと思います。」 町の観光計画でたびたび上がる言葉が「上質な田舎暮らし」。「まず私たちがここの自然や産業を上手に生かしながら、食を含めてここでしかできない暮らし方、遊び方を作り、外から来ていただく方たちにとっても魅力として感じてもらえるようにしたい」と考えています。

(あとがき) 「趣味はなかなかなくて、ほんとに無趣味ですね。」そう言いながら、迷った末に照れながら「趣味は自分の嫁さんだと答えているんですよ。」中頓別出身の奥さんと家でくつろいでいるときがいちばん安らぐという心優しい町長。町に寄せる愛情も深いものがあります。