名代 富士そば
開発 企画 広報
工藤 寛顕氏
都内山手線の駅近くをはじめ、東京、神奈川、千葉、埼玉といった関東エリアだけではなく、フィリピンなど海外にも店舗を構える、ダイタングループの「名代 富士そば」。立ち食いそばの店として、短時間かつ良心的な価格でそばやうどん、丼もの、カレーなどを早朝から夜遅くまで食べられることはもちろんですが、ときどき SNS で話題になる、斬新な店舗限定メニューや、マニアックな映画や漫画 作品とのコラボメニューなどで、常に注目を集める店でもあります。
実は「名代 富士そば」も Uber Eats の加盟店。現在、都内を中心に、2024年 7 月現在、約 50 店舗においてデリバリー注文が可能です。
「名代 富士そば」では、実店舗での提供に加えて、デリバリーを始めたことにより売り上げが一気に上昇した店舗をビジネスモデルに、それまでは検討中だった店舗も、今では積極的に Uber Eats のパートナー店になっているとのこと。
「麺がのびたら。汁が冷めたら」時間経過により味が落ちる食べ物の代名詞ともいえる「そば」を、デリバリーでおいしく届けるにはどうすればいいのか。そこには「名代 富士そば」ならではの創意工夫がありました。
1.Uber Eats を導入されたきっかけについて教えてください。
一番のきっかけは、コロナ禍で売り上げが落ちたため、リカバリーしなくてはいけなかったことですね。「名代 富士そば」は、山手線沿いなど駅前に店舗を構えているところが多いのですが、コロナによる外出制限で、通勤、通学の人が街からいなくなった。そのため売り上げが 3 割程度まで落ち込む時期もあり、かなりの打撃を受けました。そこでデリバリーを検討しよう、となったタイミングで、ちょうど過去にデリバリーの対応をしたことのある店長が、北千住店から秋葉原店に異動することになったんです。そこで Uber Eats を始めたいと提案してくれたのがきっかけですね。最初は秋葉原店や北千住店など数店舗だけの参入だったのですが、この 1 年で一気にデリバリー対応する店舗が増えているところです。
実は、前々からデリバリーを始めましょうと Uber Eats から声をかけてもらっていたのですが、始めるかどうかは各店の判断に任せていて、ほとんどの店が今後参入するかは様子見、検討中という段階でした。しかし、実際に Uber Eats の加盟店となった店舗では、売り上げがかなり上乗せできていること、さらに弊社の社長も Uber Eats のパートナーとなった最初の数店舗の成功例を見て、他の店も導入すべきと声をかけていったことが、デリバリー店舗数拡大の理由として大きかったと思います。
2.主力商品である「そば」には、配達による時間経過で麺のコシが失われてしまう、つゆが冷めてしまうといった懸念があったかと思います。どのように克服されたのでしょうか?
デリバリーにおいて「麺」を考えると、やはり、注文された方がいざ食べようとした際にのびている、ということが一番怖かったですね。作りたての温かいものを提供したいけれど、一番いい状態で食べていただくにはどうすればいいのか。Uber Eats を始める前、実際に作って配送し、注文者様のところに届けるといった一連の流れをシミュレーションしたところ、最大 30 分* 程度かかっていました。そうなるとクオリティが確実に落ちてしまう。社内での検討、試行錯誤の末、そばとつゆの容器を別々にすることにしました。温か いつゆそばの場合は、品物が到着後、注文していただいた方が器にそばとつゆを入れ、電子レンジで温めてもらうことで完成形になる、という「ほぼ完成品」をお届けすることで、課題を解決しました。そばを茹で直すまではいかないけれど、電子レンジで温めることでそばもつゆもちょうど良くなる、というものです。
昭和の時代、そば屋の出前といえば、どんぶりにそばもつゆも入った、いわゆる完成品をご家庭に届けるのが当たり前だったかもしれません。しかし、今の時代、特に海外では注文者が一手間加えて完成させるというスタイルが当たり前となっています。さらに、注文者様も完成品で受け取らないことに、昔と比べてさほど抵抗がなくなっています。これは Uber Eats の浸透というか、デリバリーの文化が根付いたことにより、新しい麺の食べ方、注文する側の意識が変化していったからではないかと思っています。
* 当時の実例であり、現在の Uber Eats において 30 分以内の配達を保証するものではありません。
3.実際に Uber Eats を始めてからの反響はいかがでしたか?
月に 500 万円の売り上げを出していた店が、コロナの影響で 200 万円ぐらいまで落ちた反面、デリバリー注文だけで 450 万を売り上げたことがありました。それこそ、デリバリーといえば、ハンバーガーなどファストフードの店の前に配送のバイクが集まっている、という印象があるかと思うのですが、その「名代 富士そば」の店舗は、一時期ファストフード店並みにバイクが複数台待機していましたね。そうなると、店舗でもどんどん注文をこなしていかなくてはならないし、配達パートナーさんともあうんの呼吸で、挨拶や会話も必要最低限で商品をピックアップいただき、どんどん運んでいただく。デリバリーの勢いはもちろんですが、会社として伸び代がまだまだあることを実感しました。
実際に Uber Eats を始めて意外だったのは、とある会社が 1 日おきに 20 食などまとまった注文をしてくださる、まるで仕出し弁当のような使い方をしていただいたり、注文者様からのクレームで「天ぷらの衣がふわふわだ、柔らかすぎる」「天ぷらが冷めている」といったご指摘をいただいたりしたことです。「名代 富士そば」の実店舗で食べたことがある方なら分かると思うのですが、当社の天ぷらはつゆに浸かってほろほろと崩れることを想定した、柔らかめの天ぷら衣ですし、店内で 食べる場合でも天ぷらは熱々ではありません。おそらく「ふわふわ」「冷たい」とご指摘くださった方はそれを知らない。普段は店舗に食べに来ない、食べたことがない方からもご注文いただいているということなんです。デリバリーを始めたことにより、顧客の新規開拓にもつながっていることを実感しています。
4.デリバリー用の梱包材はどのようなものを使っていますか?
注文者様が商品を受け取った後に温めることを想定し、電子レンジ対応可の器を採用しています。基本的には、どの店舗も大体同じ梱包材を使っているのですが、つゆの入れ物に関しては、現在、フードシーラーと言う、真空パックにして袋に詰めるタイプと、タレ瓶、ボトルに詰めるタイプの 2 パターンを店舗により提供していますね。梱包に関しては詰め方や容器などまだまだ改善の余地があると考えているのが正直なところです。
デリバリーの注文が今後も拡大していくことを考えると、セントラルキッチンなどでそばやつゆなどを一括して製造、パッケージングを行うことを検討する必要があるかもしれません。その方が現場の作業行程的には楽になるのかもしれないですが、デリバリーを始めたばかりの店舗も多く、今はまだそこまでの結論に行き着いていない状況です。富士そばが店によって個性が感じられるように、デリバリーにも店舗ごとの個性が感じられると思っていただければありがたいですね。
まとめ
「名代 富士そば」の主力商品がそばである以上、デリバリーに当たっては、「のびる・冷める」という問題は避けられないように思えました。しかし、そばとつゆ、それぞれを別の包装で配達し、注文者が器にそばやつゆ、天ぷらなどの具を入れて、電子レンジで加熱することにより完成させるという方法を生み出すことで、実店舗で食べる味に近づけることに成功されています。完成直前の状態で注文者に届ける、という方法は、時間経過が味や食感に左右する料理をデリバリー対応メニューにする際に活かせるアイデアといえそうです。インタビュー後半では、「名代 富士そば」における店舗スタッフのデリバリー対応について、さらにデリバリーについての考え方、今後の展開などについてご紹介します。