
北海道・稚内から車で南に2時間弱の所に位置する、人口約1,800人の町、北海道中頓別町で、UberのICTシステムを活用したライドシェア(通称: なかとんべつライドシェア)の実証実験が行われています。今回は、スマホやタブレットがなくても依頼があれば、利用者の代わりに配車依頼をしてくれる「代理配車」を中頓別町農協で行なっている若山さんにお話をお伺いしました。
若山さんは町の数少ない主要なスーパーのひとつ、エーコープ(農協)の店長をしています。なかとんべつライドシェアには代理配車の要員として参加。こういう取り組みがあると役場から打診を受け、すぐに手を挙げました。
買い物客を増やし、町を活気づけるために
町の高齢化が進んでいるため、エーコープに買い物に来るお客さんの多くは高齢者の女性。自転車で、歩いて、手押し車を押してやって来る人もいます。マイナス30度を下回ることもあるという冬でもそうやって買い物に。「大変だろうなって思っていました。」足が不自由だったり腰が痛いという人もいます。買い物の配達も行っていますが、それだけでは不十分であるという思いを抱え、独自に送迎ができればと考えていたところ、この取り組みを聞いて「これだ!」と思ったといいます。
もともと農協で牛の人工授精や牛乳の販売、また牛の売り買いなどを長く担当し、3年前にエーコープに異動になった頃は経営もなかなか厳しかったといいます。
「町の人口も減ってきて大変だった。」たくさんのお客さんに来てもらうにはどうしたらいいだろう、と若山さんは考え、お客さんにも尋ねました。エーコープに行っても品物が少ない、それは若山さん自身も感じていました。「ではまず、お客さんの求める品物を入れましょう。」ところが店舗はかなり 小さい。「店側が商品を考えてそろえるだけでは店舗が小さすぎるので、じゃあ、お客さんに何が欲しいんですか、どんなものが必要ですかと声をかけていくところから始めました。」定番の商品のなかで必要じゃないものは思い切って省き、お客さんの求めに細かく応じていきました。
「例えばマヨネーズだったら、A社のしかないけど、本当は、うちはB社のものを利用している、って言われれば、じゃあ入れましょう。一味の詰め替えはあるけど七味はないのと言われれば、じゃあ七味入れましょうというふうに。」
また、詰め放題の企画なども、年に7回くらい行っています。そんなものはテレビで観たことはあるけれどやったことはないという方が多く、最初は恥ずかしがって「店長さん、あんた代わりに入れて下さい」というほどだったそうです。日本手ぬぐいを頭に巻いて張り切って薦めた若山さんも、出鼻をくじかれました。
「ところが何回目かになったらすごいことになって、もう山盛りになってはみ出してて、『店長これでもいいんでしょ』『いいですよー』って、お客さんにも喜んでもらえるようになってきました。」
スーパーは人々の集いの場
また、若山さんは店の前で買い物に来たお客さんがちょっと休んだり、コミュニケーションを図ったりできるよう、ウッドデッキを手作りし、ひさしをかけ、テーブルと椅子を置きました。天気の いい日はちょっと涼み、吹雪の日には風を避け、買い物に来た町民同士がゆっくりくつろいで帰れるような場所をとの思いが形になっています。
こうした数々の取り組みで活気を取り戻しつつあるエーコープですが、どうしても吹雪や雨の日などは、交通手段をもたない人たちは家に閉じこもりがちになり、客足が途絶えます。もっと町の人々が気軽に出歩けるようになるといい。町のスーパーは、商品を買って帰れたらそれでいいというものではないというのが若山さんの考え。人々が集い、憩い、コミュニケーションを図る場所でありたいと願っています。



小さな町でライドシェアを当たり前にするには
なかとんべつライドシェアをもっと多くの人が利用するようになるためには、「身近」であることが必要と若山さんは考えます。
「タブレットの操作は非常に簡単。今、使える車がどこにいて、あとどのくらいで来るか、料金もだいたいこのくらいとわかって、説明しやすく、お客さんも安心して乗ることができます」。非常に便利で画期的なアプリだけれど、地方ではまず身近に感じてもらわなくてはなかなか広がらない。」と力を込めます。
「都会と、こういう小さな田舎町で使う対象の人っていうのは、まったく違うっていうふうに考えないとだめだと思いますね。」都会の人は皆スマホやタブレットをもっていて、アプリをダウンロードすれば簡単に車が呼べるけれど、ここではスマホを持っていない、持っていたとしても使いこなせていないのが現状で、役場に電話して利用することが主になっています。
「私のところも、別にエーコープへの買い物の行き帰りだけでなく、まったくほかのところに行きたいときに電話してくれてもいいんだけど、なかなかそういう人はいないですね。『私今パークゴルフに行きたいからちょっと呼んで』なんて、『ちょっと呼んで』で通じるくらいライドシェアが身近になるといい。」
もっともっと利用してもらうために、若山さん自身、店内に大きな自作のポスターを貼り、お客さんにも呼びかけています。
街の周辺部までも孤立させないように
「私も定年退職したらドライバーに登録したいなと思ってるから予約しといて」と若山さん。ドライバーもどんどん増えて、常時利用できる車が何台もあるのが理想だけれど、それにはまず利用者が増えること、そして電話で配車してくれる場所も増やし、電話受付の時間や曜日の制限もなくしていくこと、三方から、この町でライドシェアが当たり前になる働きかけをしていかないとならないと熱く語ります。若山さんが代理配車を請け負ったのは、そうした好循環のひとつのきっかけになりたいと思ったからでした。
「利用者が増えていけば、え、そういうことを不安に思ってたの? ってことや、『そうしたらこんなときにも乗せてもらえるの?』なんてやりとりも出てくるだろうし、実際に利用してもらうことで、なかとんべつライドシェアがどこまでできるのかっていうことが見えてくるんじゃないかなあ。」
中頓別町生まれ中頓別町育ち。実家は酪農をやっていたが、両親も高齢化して離農。同じように、かつて町の周辺部で酪農を営んでいた人たちが離農し、そのままそこに住んでいるというパターンが多いといいます。こうした人たちが、自分で車を運転することをやめたとしても、家に閉じこもらずに気軽に出かけていける体制づくりが絶対に必要だと考えています。
投稿者: Uber Editor